ファイルシステム

「ゴミ箱にファイルをドラッグすれば、データを削除できるんだよ。」


「それは違いますね。」


僕の声をさえぎって声がする。
クロメだ。
彼女はいつも僕の言葉に反論する。


「ファイルをゴミ箱にドラッグしてもデータは消えません。」


「えっと、ゴミ箱から消さないとって意味でしょ?」


なぜこんな簡単なことでいちいちつっかられなければならないんだろうか。


「違いますね。」


「?」


ファイルをゴミ箱から消せばデータが消えるってのは常識のはずだ。なぜ、そんなことを言うのだろう。僕は分からなくなる。


「ファイルが、何かご存知ですか?」


「え?んー、データじゃないの?」


「違いますね。」


同じ返答にいらいらしてくる。


「ファイルというのは、データにアクセスするカギのようなものです。ハードディスクにはデータが入っているのは当然ですが、それはとても大きなものなんです。そう、図書館の本のような感じです。だから、データにアクセスしようとしても、見つけるのが大変でしょう?」


確かに言うとおりだ。もしハードディスクに直接アクセスしようと思ったら、アドレスを指定して、データにアクセスするしかない。どのアドレスにどこまでデータを入れたかなんていちいち覚えてられない。


「図書館で、本を検索したことがあるでしょう?名前を入れると、検索できて、本のある場所を書いた紙が印刷される機械ですね。」


うむ、そんなものもあった。大学の図書館ではアレが無かったら本を見つけるのは不可能だろうな。


「つまり、その紙がファイルってことです。本・・・つまりデータがどこにあるかを書いてある紙。それがファイル。正確には他にも書いてありますけどね。」


「んー、ということは、ファイルを削除するってことは、その場所をかいた紙を削除しているだけってこと?」

「そういうことです。だから、データは消えません。データにはアクセスしづらくなった。ということでしょう。だから、データを完全に消去しようと思ったら、データを上書きする必要がありますね。」


なんてことだ・・・今まで、データそのものだと思っていたファイルがただの紙切れだったわけか。ん、もしかしてこれは、OSの機能の一つ・・・だよなぁ。OSって賢いんだなぁ。ファイルかぁ。


ん、そういえば、これに似たものがまだあったような・・・。


「データベースも同じような機能がありますね。」


クロメの声が現実に引き戻す。


「データベースもこれの一種なのかい?」


「共通点が多いことは確かですが、目的が違いますからね。議論のあるところです。興味がおありなら私なんかより、詳しい方にお聞きになると良いと思いますよ。」


「ああ、うん。ありがと、勉強になったよ。」


気がすんだのか、にこにこ顔で去っていく。


彼女はつっこみ役みたいだ。